「イノベーション」は、技術革新にとどまらず、新しい生活スタイルや社会システムの原動力となる「革新」・「新機軸」を指す、大変広い意味を持った言葉です。2007年 4月、この「イノベーション」をテーマに掲げ、我が国近代製鉄発祥の地である八幡・東田の地に、北九州イノベーションギャラリー(北九州産業技術保存継承センター)がオープンしました。北九州イノベーションギャラリーは、技術とデザインを融合させ、数々のイノベーションを成し遂げてきた日本・北九州の先人たちの知の遺産を未来につなげ、新しいイノベーションを創出する力を育てます。
北九州・東田は日本の20世紀のイノベーションが始まったところです。1901年、日本で初めて近代製鉄の火がここに点されました。それ以来、この地から鉄はもちろん、化学、硝子、機械、電機などの産業が生まれ、さらには画期的な新技術を世界に向けて発信する拠点ともなったのです。また、北九州は公害克服の経験も持っています。日本最初の臨海コンビナート、洞海湾は1960年代になると死の海と呼ばれるほどに汚染され、空は煤煙に覆われていました。 この問題に市民、企業、行政が一体となった取り組みが行われ、その結果、青い空と海がよみがえったのです。この取り組みは、国連環境計画(UNEP)からの「グローバル500」受賞、国連環境開発会議(地球サミット)での「国連地方自治体表彰」受賞など、国際的にも大変高い評価を受けています。北九州は20世紀のイノベーションの発祥地であると同時に、未来につながる21世紀のイノベーションを生み出す可能性に満ちているのです。
北九州イノベーションギャラリー(KIGS)は、北九州市における東田ミュージアム群のひとつに位置し、だれもがいつでも立ち寄ることができ、さまざまな出会いや体験を通じて北九州市における産業の過去・現在を知り、未来を担う人材を育成する施設として計画されました。
KIGSを取り巻く都市環境と配置計画
~過去・現在・未来のミーティングポイント
KIGSの立地する東田地区は、商業施設から文化施設までさまざまな施設が建つ一方で、東田第一高炉や都市高速、スペースワールドといった存在感のある大きなものに囲まれており、渾然とした特徴的な都市環境にあるといえます。
こうした環境の中で、KIGSの建物はスペースワールド駅を基準として建てられている他の施設とは異なり、東田第一高炉のもつ歴史的に継承されてきた都市軸を尊重して配置されています。また、広い敷地の中でもっとも東田第一高炉に近い位置にあり、来館者は間近にその存在を体験できます。
建物を、官営八幡製鐵所設立時から重視されてきた都市軸上にある東田第一高炉と平行に、また、ごく近くに配置することで、来館者が産業都市・北九州の歴史性に身を置きながら、未来を構想することができる場となっています。
KIGS平面計画~柔軟なプログラムの広がりを生み出す機能配置
KIGSでは、多様な機能が鉄骨の斜格子によって一つの空間につつみこまれています。展示室やプレゼンテーションスタジオ、ライブラリーなどの場所が、ガラスで囲われた中庭や廊下を介して、特別な関係性を持たずに配置されています。平面的な組合せを特化せずにこれらの部屋が配されていることで、利用の可能性を限定しない自由なプログラムが可能になっています。
また、建物に入るとエントランスからすべてのパブリックな空間が見え、KIGSで行われている活動を感じることができます。このエントランスのある空間は64メートルの長い空間で、そこを移動することで多目的スペース、カーテン越しに年表のギャラリー、中庭、エントランス、ラウンジ、ライブラリーといったKIGSの様々な機能が体験できます。
KIGSボリューム計画~シンプルで開放的な量塊
特徴的なものが多い周辺環境に対し、KIGSはシンプルで凛とした存在感を示しています。壁と屋根が一体化した特徴的な曲線屋根の形状は、プレゼンテーションスタジオ、ギャラリーといった天井の高い空間と、ライブラリーなどの空間をひとつに包み込んだ結果でもあります。
KIGSの外皮の曲面は、H鋼の鉄骨の斜格子で組まれた構造体と三角形のガラスとアルミパネルの組み合わせの外皮によってひとつのシステムから構成され、建物をひとつの塊として見せます。この斜格子とガラスの外皮で包まれた屋内空間も開放感があり特徴的です。